「太陽が降り注ぐ場所」(後編)
「village safe haven」訪問3日目。この日が、僕らがここに来ることのできる最後の日となる。染谷西郷は、この日のためにとっておきのプランを用意していた。
「昨日、みんなに日本で起こった大きな災害のことを話したの、覚えてるかな。大きな地震、そして津波。たくさんの人が家を流され、家族や友達を失ってしまったことを」
子どもたちは表情を曇らせながら、ゆっくりうなずいた。
「そして、みんなは日本の子どもたちのためにメッセージを書いてくれたよね。みんなの写真と全員分のカラフルな手形と一緒に。ありがとね。本当にありがとう」
少し間を置くと、西郷はいよいよあたためていたプランを子どもたちに提案した。
「僕も自分に何ができるかいろいろ考えたんだけど、みんなが考えてくれたメッセージにメロディをつけさせてくれないかな。そうしてできた曲を、みんなで録音しよう。そして、昨日みんなが書いてくれた手紙とともに、その曲を日本の子どもたちに届けてこようと思う。もちろん、完成したCDは必ずみんなにも送るからね」
思いがけない提案に、子どもたちは目を丸くしている。
「僕らが初めて会ったとき、みんなは夢を語ってくれたよね。そのとき、『シンガーになりたい』と言ってくれた子が何人かいた。君もそうだったね。そう、君も。君たちにとっては、これがシンガーとしてのデビューになるんだよ!」
西郷が茶目っ気たっぷりにそう言うと、歌手志望の女の子たちは信じられないといった表情でぽかんと口を開け、まわりの男の子たちは彼女たちを冷やかすような、それでいて、ちょっぴりうらやましそうな視線を送った。
早速、曲作りが始まった。前日に子どもたちが書いてくれた手紙からだけでなく、あらためてその曲に盛り込みたいメッセージを募ることにした。西郷の呼びかけに、子どもたちからは続々と手が挙がる。
「God blesses you」
「God is always with you」
「Believe in God and you can proceed」
どれもがあたたかな思いにあふれた言葉なのだが、キリスト教が根ざすこの国では、どうしても神にまつわる言葉が多くなる。このままでは、いまひとつ日本の子どもたちには伝わりづらいメッセージになってしまう可能性が高い。
「みんな、たくさんの素敵な言葉をありがとう。いま、みんなは日本の子どもたちに届けたい言葉を考えてくれたよね。じゃあ、今度は少し考え方を変えてみよう。もしも、みんなが日本の東北地方に住む子どもたちで、昨日写真で見たような津波に家を流されてしまったり、家族や友達を失ってしまったり。自分がそういう立場だったとして、みんなはどんな言葉を受け取ったらうれしいかな。力をもらえるかな」
子どもたちが口にする言葉が、少しずつ変わってきた。
「Always remember you’re not forgotten.(あなたは忘れられてなんかいないということを忘れないでね)」
「there is always hope.(いつだって希望はあるよ)」
「You are not alone even though you think you are.(自分はひとりぼっちだと思っているかもしれないけど、そんなことはないからね)」
彼らがどんな境遇で育ってきたかを知らされている僕らには、涙なくしてこれらの言葉を聞くのが難しかった。その通り、その通りだよ――。彼らが口にする言葉は、まさに僕らが彼ら自身に伝えたい言葉でもあった。
たくさんの言葉が出揃った。西郷と僕、そしてギタリストのヨシロウは「15分ほど時間が欲しい」と言って庭に出ると、そこで曲作りを始めた。どの言葉をチョイスするか。どんなメロディをつけるか。それは難しくも、楽しい作業だった。
そして、ついに完成した。子どもたちが短時間でも覚えられるよう、ほんの短い曲にしたが、それはとても素敵なメッセージの詰まった、美しい曲だった。
――西郷、この曲のタイトル、何か考えてる?
「ああ、タイトルか。何かいいのありますかね」
――最初にここに来たとき、「太陽がいっぱいに降り注ぐ場所だね」と話してたの覚えてる? 彼らの人生にも、そして東北の子どもたちの未来にも、太陽なたくさん降り注ぐように。『太陽が降り注ぐ場所』というのはどうかな」
「ああ、いい。すごくいいですね」
こうして、タイトルは『Where the sun can shine(太陽が降り注ぐ場所)』に決まった。子どもたちを芝生の上に集めて、いま完成したばかりの曲を披露する。そのときの子どもたちの表情と言ったら、もう――。「これは、僕たちみんなでつくったオリジナルソングだからね」と西郷が言うと、子どもたちはうれしそうに何度もうなずいた。
何度か練習したのちに、僕らは録音することにした。世界中には素晴しいミュージシャンが無数に存在するけれど、しかし、ヨハネスブルグの「太陽が降り注ぐ場所」には、彼らに負けないくらい素敵な歌声を響かせてくれるミュージシャンがたしかにいた。
『Where the sun can shine(太陽が降り注ぐ場所)』
作曲:染谷西郷 作詞:「village safe haven」の子どもたち
We will always be different but we are all a family.
(私たちにはいろいろな違いがあるけど、私たちは家族)
You are not alone even though you think you are.
(自分はひとりぼっちだと思っているかもしれないけど、そんなことはないからね)
Love never fails.
(愛は決して裏切ったりしない)
You’ve got to be happy.
(幸せにならなくちゃね)
Oh be happy.
(幸せになろう)
Love never fails.
You’ve got to be happy.
Oh be happy.
太陽が降り注ぐ場所(動画)
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