OTO ZONE

イスラム教は悪?

2013年1月22日

 アルジェリア人質事件。日本人7名を含む人質37名の死亡が確認されました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、まだ安否のわかっていない方々の無事を祈るばかりです。自分たちの主張を通すために無関係の人々の命を脅かし、奪うという非道な手法に、激しい憤りを覚えます。

 一方で気になるのは、ただでさえ日本人にとってなじみが薄く、「なんだかよくわからない宗教」と位置づけられてしまっているイスラム教に対する偏見や嫌悪感が、今回の事件を機に、より増長されてしまうのではないかということです。それは絶対にあってはならないことだし、避けなければならない。

 じつは、先週まで北アフリカにあるモロッコという国に一週間ほど滞在していました。今回の事件が起こったアルジェリアのすぐとなりにある国です。モロッコに住むほとんどの人々は、イスラム教徒。でも、彼らはやさしく、穏やかで、車いすで旅する異邦人の僕に、とても親切に接してくれました。

 もともとイスラム教は戒律に対して厳格な国が多く、人々は理性を保つためにアルコールは口にせず、また盗みが大罪であるという意識が強いことから、窃盗事件も起こりにくいと聞きます。実際、モロッコでもスリなどの被害に遭う観光客は少なく、僕もその点では欧州より安心して過ごしていました。

 しかし、なかにはイスラム復興主義(一般的には原理主義)という思想を信仰している人々もいます。これは、現在のイスラム世界は教典『クルアーン(コーラン)』に基づいたものではなく、原点回帰すべきだとする考え方です。そのため、近代的または西洋的な価値観とは相容れない面も大きい。

 この自分たちが理想とする伝統的なイスラム社会を実現するために、暴力や破壊的活動を行う人々がいます。これが、イスラム過激派と呼ばれる人々です。つまり、今回の事件を起こしているのは、「イスラム教徒」のなかの「イスラム復興主義者」のなか「過激派」という、ごく一部の人々なのです。

 こうした背景を押さえることなく、メディアが、そして僕らが「イスラム勢力によるテロ」と単純化して表現してしまうことで、あたかもイスラム教そのものが危険な思想であるかのような誤解を与えてしまうとともに、イスラム教を信仰する人々への差別や偏見を生みだしてしまいかねません。

 それは、サッカーの試合会場で暴力的行為を行うフーリガンを指して、「サッカーファンは低俗だ」「サッカーとは野蛮なスポーツだ」と論じてしまうことの無意味さ、滑稽さと通じるところがあります。一部の人々の思想や行為を、全体がそうであるかのように錯覚してしまう危険性がここにあります。

 このことは、『五体不満足』を出版し、多くのメディアで発言する僕を見て、つまり、「障害者の一部に過ぎない」僕を見て、「障害者は誰しも前向きに生きられるはず」と、ほかの障害者にまで明るく振る舞うこと、努力することを求める人が多くいたこととも似ているかもしれません。

 テロリストたちの卑劣な行為に対しては、絶対に許すことができません。どんな思想、どんな信条であれ、暴力によって他者の命を奪うことなど、あってはならないことです。ですが、今回の事件によってイスラム教やそれを信仰する人々への偏見が生まれないことを切に願っています。了


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