OTO ZONE

桜の木の下で

2010年11月29日

東京新聞『わが街わが友』全12回の連載をお届けするシリーズ。
今日は、担任していた子どもたちとの別れをつづった
第12回「桜の木の下で」をお送りします!

 

第12回『桜の木の下で』
素直な子どもたち。理解ある保護者の方々。「車いすに乗った手足のない教師」という異質な存在を、高円寺の街はあたたかく受け入れてくれた。

いよいよ退職の日を迎えた3月31日。子どもたちはすでに春休み。学校には教職員しかいない。ロッカーや机上の荷物整理を終え、ちょっぴり感傷的な気持ちになりながら職員室を出ようとしたそのとき、校庭側の窓ががらりと開き、そこからふたりの少女が顔をのぞかせている。

「先生、ちょっと校庭まで出てきてよ。早く、早く!」

あわてて車いすを校庭まで走らせると、なんとそこには2年間受け持った子どもたちと、その保護者の方々が待ち受けていた。驚きで目を丸くする僕を、あたたかな笑顔がぐるりと取り囲む。

「先生、2年間、本当にお世話になりました!」
「いや、先生のほうこそ、ありがとう。みんなと過ごした毎日、本当に楽しかったよ!」

校庭の隅では、ただ一本だけ植えられた桜の木が、4月の声を待ちきれずにその蕾を開いている。僕らはその薄紅色の屏風をバックに記念撮影をした。

うれしかったこと。苦しかったこと。子どもたちが校門まで見送ってくれるその間、3年間で経験したすべてが、走馬灯のようによみがえってくる。杉並区と契約した3年という年月は、過ぎてしまえばあっという間だった。もっと続けたいという後ろ髪ひかれる思いももちろんあったが、同時に教育現場で得た貴重な経験を伝えていきたいとの思いもあった。

今月出版された『だいじょうぶ3組』(講談社)は、そんな子どもたちと向き合った3年間の思いを、たっぷりと詰め込んで描いた初の小説だ。ご一読いただき、感想などいただければ幸いだ。


バンド練習 金メダル!!
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金メダル!!
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