歌舞伎町の教育者
東京新聞『わが街わが友』全12回の連載をお届けするシリーズ。
今日は、歌舞伎町を舞台に活躍する親友への思いをつづった
第9回「歌舞伎町の教育者」をお送りします!
第9回『歌舞伎町の教育者』
親友・手塚真輝が歌舞伎町で経営するホストクラブへは、週一回ほどのペースで飲みに行くようになった。ホストというと世間では眉をひそめられるような存在だが、彼の店の従業員はどの子も礼儀正しく、清々しさを感じさせた。
「ホストなんてそう長くやれる職業じゃない。だから、せめて僕の店にいる間に、社会人としてしっかり仕事ができるような人材として社会へと送り出してあげることが僕の役目なのかなって」
だが、それぞれ地元でワルだったような青年たち。そうひと筋縄でいくような相手ではない。手塚は知恵を絞った。
「ワルって、目立ちたいからわざと他の人と違うことをするんですよ。でも、歌舞伎町にはそんな人種ばかりが集まっている。だから、『いままで通りにしていたら、まったく目立たなくなるぞ』と言って脅したんです」
効果はてきめんだった。時間を守る。挨拶をする。掃除をする――これまでできなかった「当たり前のこと」が次第にできるようになってきた。その後、小学校の教師として十歳前後の子どもたちと向き合うことになる僕と、ホストクラブのオーナーとして二十歳過ぎの若者たちと向き合う手塚。立場こそ違えど、「教育」に興味のある者同士、大いに語り合った。
この夏、彼の店の従業員はそろってソムリエ試験を受けた。「ホストクラブにソムリエがいたらカッコイイ」という手塚の思惑もあったが、もちろん、それだけではない。
「ほとんどの子が、勉強から逃げてこの歌舞伎町という街に流れてきた。そんな彼らに、自分を奮い立たせて勉強するという経験をさせてあげたかったんです」
最終結果が出るのは、今秋。彼の店から、いったい何人のソムリエが誕生するだろう。
※見事、6人の合格者が誕生しました!
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