オトフォン
東京新聞『わが街わが友』全12回の連載をお届けするシリーズ。
今日は、教員時代の保護者との思い出をつづった
第11回「オトフォン」をお送りします!
第11回『オトフォン』
以前から教育に深い関心があった僕は、スポーツライターから小学校教師へと転身することを志した。手足のない人間の「教員になりたい」という非常識な願いを叶えてくれたのが杉並区。「3年間の任期付き」という条件で僕を採用してくれたのだ。赴任先は杉並区立杉並第四小学校。JR高円寺駅から徒歩5分ほど。ねじめ正一氏の直木賞受賞作『高円寺純情商店街』の舞台にもなっている街だ。
教員2年目、初めて担任を任された。3年2組。このかわいらしい23人の子どもたちをよりよい方向に導いていくには保護者との信頼関係が不可欠と考えた僕は、その手法について考えをめぐらせた。結果、「ブッチホン(小渕元首相による唐突な電話)」ならぬ「オトフォン」をかけまくることにした。
担任から電話がかかってくるとなれば、何か子どもがトラブルを起こしたときと相場が決まっている。ところが、僕は子どものことを褒めるために電話をかけまくった。
「今日の体育の時間、○○ちゃん、ずっと苦手な逆上がりの練習をしていたんですよ」
「○○君、いつもは引っ込み思案なのに、今日は△△委員に立候補してくれたんです」
最後まで逆上がりができなくてもいい。投票の結果、委員が別の子に決まったっていい。たとえ結果に結びつかなくても、その子の頑張りを評価してあげたいし、親としても通知表で示される数値だけでなく、わが子のそうした頑張りを知りたいと思うのだ。
初めのうちこそ「え、ウチの子が何かしたのでは……」と戸惑っていた保護者の方々も、次第に「オトフォン」を楽しみにしてくださるようになっていった。車いす先生は、こうして高円寺の街との関係を深めていった。
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