楕円形に夢を乗せて
東京新聞『わが街わが友』全12回の連載をお届けするシリーズ。
今日は、高校時代の青春の思い出をつづった
第4回「楕円形に夢を乗せて」をお送りします!
第4回『楕円形に夢を乗せて』
JR高田馬場駅から徒歩10分ほどの距離にある都立戸山高校。制服もない自由な雰囲気と、上からの押し付けではなく生徒自身に考えさせるという校風がとても気に入り、僕は進学先としてこの創立100年以上の歴史を誇る伝統校を選んだ。
入学後にまず圧倒されたのは、各クラブの熾烈な新入部員獲得競争。ランチタイムにがらりと扉を開けて入ってきた演劇部員が黒板の前で即興劇を演じたかと思うと、休み時間には合唱部が整列して、美声を披露する。そのなかで僕の視線を釘づけにしたのが、アメリカンフットボール部だった。鎧のような防具を身にまとって教室になだれこんできたかと思うと、「ウォーッ」と猛々しい雄叫びをあげる。女の子たちはさすがにたじろいでいたが、僕は完全ノックアウト。早速、その日の放課後、友人と連れ立ってアメフト部の見学に出かけていった。
面食らったのは、先輩部員たちだ。なんせ、手足のない車いすに乗った新入生が「アメフト部に入りたい」とやってきたのだ。目を白黒させる先輩たちのなかで、「いや、きっと君にもできることがある」と声をかけてくれたのが松葉杖をつくY先輩だった。
Y先輩はそれまで守備陣の中心選手として活躍していたが、試合中の怪我で靭帯を痛め、以降はプレーが不能に。それでも、チームメイトが認めるほど明晰な頭脳を生かし、相手チームのプレーを分析するなど、戦術面で大きくチームに貢献していたのだった。
「俺が引退したら、おまえがその役割を担ってくれよ」
先輩の言葉に深くうなずいた僕は、その日から「戸山砂漠」と言われる砂ぼこり舞うグラウンドで、仲間たちとともに優勝を目指し、楕円形のボールを見つめる日々を送ることになった。
愛しい君へ | そして、頂上へ |
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そして、頂上へ |