OTO ZONE

馬上からの景色

2010年11月8日

東京新聞『わが街わが友』全12回の連載をお届けするシリーズ。
今日は、用賀小学校時代のめずらしい思い出をつづった
第3回「馬上からの景色」をお送りします!

 

第3回『馬上からの景色』
「ピイーッ、ピッ!」

僕が6年間通った世田谷区立用賀小学校。正門前にある横断歩道では、毎朝、警官が交通整理をしてくれていた。そしてその警官が乗っているのは、パトカーでも白バイでもなく、“馬”だった――。

用賀小から徒歩十分ほどの距離にある馬事公苑は、東京ドーム約4個分という広大な敷地を誇るJRA運営の公園。春には桜が咲き誇り、区民の憩いの場となっている。騎馬警官は、毎朝、この馬事公苑からやってきていた。
十一月。勤労感謝の日に向けて、各学年が日頃からお世話になっている方々に作文を書くことになり、僕ら五年生は騎馬警官に感謝の思いを伝えることとなった。すると、「作文のお礼に」と、五年生全員が馬事公苑で馬に乗せてもらえることになった。

冬の澄んだ青空。白い鉄柵に囲われた黒土の放牧場。僕らは列をつくって、茶褐色の美しい馬体にまたがる順番を待った。友達が気持ちよさそうに場内を一周する姿を見上げながら、「いったい馬上から見える景色はどんなだろう」などと思いをめぐらせる。少しずつ僕の番が近づくたび、鼓動が速まっていった。

「よし、じゃあ次はヒロだ」

担任の先生に抱えられて、5段ほどの木製の階段を上がる。これで、ようやく澄んだ目をしたサラブレッドと同じ高さになる。職員の両脚に挟み込まれるようにして、馬上へ。目線は2階にいるような高さ。ぐらり。ゆっくりと動き出したが、思いのほか揺れが大きい。怖い。でも、何だか誇らしい気分。あっという間の数分間だった。

カポッ、カポッ。馬の蹄が路面を叩く音とともに登校していたあの頃。騎馬警官は、いまでも用賀小の子どもたちを見守ってくれているという。


祭りのあと 愛しい君へ
祭りのあと
愛しい君へ
乙武洋匡公式サイト|OTO ZONE |
©2014 Office Unique All Rights Reserved.