OTO ZONE

「太陽が降り注ぐ場所」(前編)

2014年1月13日

 ヨハネスブルグにある養護施設「village safe haven」を訪れた。ここには、2歳~16歳まで計26人の子どもたちが住んでいる。彼らは、様々な事情から親と一緒に住むことができずにいるというが、いったいどんな事情があるのだろう。この団体の代表を務めるマイケルさんに話を聞くと、彼は壁にかかった一人ひとりの顔写真を指しながら教えてくれた。

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 「たとえばこの子は、売春婦だった母親にホテルに置き去りにされていたところをホテルのスタッフに発見されました。この子は、ゴミ捨て場に捨てられていた。この子は、生後すぐに母親が病死してしまい、義理の父親が出勤前にこの子を箱に入れて鍵をかけ、夕方五時に帰宅すると箱を開けるという生活を一ヶ月ほど続けていたところ、異変に気づいた近所の人に発見されました」

 もう、やめてくれ――。思わず耳をふさぎたくなるような過酷な生い立ちが次々と語られる。親が暴力をふるう。アルコール中毒やドラッグ依存により、まともな生活ができない。彼らが育った環境はじつに過酷だが、しかし、それが彼らの現実だ。

 「この子は、手続きをして私の養子にしたんです」

 マイケルさんが、ひとりの少女の写真を指さした。

――26人もいるなかで、どうしてこの子だけ?

 「親がどうしても一緒に暮らしたいと引き取りに来たんです。不安な気持ちはありましたが、やはり親と暮らせるならそれがいちばんいいだろうと引き渡した。ところが、その後、消息をたどってみると、その子はフィリピンに売り飛ばされるところだったんです。それで、あわてて私の養子にして引き取ることにしました」

 その後も、「子どもを引き取りたい」と親が迎えに来たケースはある。だが、マイケルさんは子どものことを考えるからこそ、引き渡すことはできないという。引き渡しても、また同じ悲劇が繰り返されることが目に見えているからだ。

――でも、実の親が引き取りに来ているのに、引き渡さないということは難しいのでは?

  「親が更生するための2年間のプログラムがあり、それを修了しないと引き渡さないというルールがあるんです。しかし、これまでそのプログラムを修了した親は、誰もいません。10年間でひとりも、ですよ。すべての親は途中で挫折し、またどこかへ姿を消してしまうんです」

 また親と一緒に暮らせるようになるかもしれない――そんな期待を抱かされては、あえなく裏切られる。子どもたちの心情を思うと、こちらまで胸が苦しくなる。

 10年前にご夫婦で始めた活動。当時は、6人の子どもがようやく暮らせるほどの小さな建物しかなかった。それが10年間で少しずつ建て増しを重ね、いまでは男の子の住居棟と女の子の住居棟、さらに数台のコンピューターを備えた宿題ルームと、テラス付きの食堂が完備されるまでになった。美しい芝生が生えそろった庭には、すべり台や雲梯などの遊具、長さ15mほどの立派なプールまである。来週には未就学児のための保育所がオープンし、外部からも子どもを受け入れるという。

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――太陽の光が降り注ぐ、とても素敵な場所ですね。

  「ありがとうございます。ここは、彼らにとっての家ですからね。いわゆる“施設”にはしたくないんです」

  広々とした敷地にすぐれた設備が整う。とても恵まれた環境と言えるが、しかし政府からの補助などはなく、マイケルさんが働いて得たお金と有志による寄付によって運営されている。数年前から友人夫婦が手伝ってくれるようになったが、それでも大人4人で26人もの子どもたちを育てていくのは容易なことではない。また、彼らを引き取るには煩雑な手続きが待ち受けており、毎回、膨大な書類と格闘しなくてはならない。

  これほどの苦労を重ねながら、マイケルさんが10年間、その歩みを止めずにいられた原動力は何だったのか。

  「それは“怒り”です。彼らの親を見ていると、親になる資格がなかったとしか言いようがない。もし私が政府の役人だったら、こういう人間には親になる資格を与えないようにしたいとさえ思っています。でも、私にそんな権限はないし、そうした怒りを子どもたちにぶつけても何も始まらない。だから、私自身のそうした感情は奥にしまって、つとめて冷静に、ただ子どもたちを育てていく。それだけです」

 マイケルさんには、ひとつ懸念がある。18歳になったらここを出て、自立するきまりになっているのだが、彼らの将来が楽しみでもあり、不安でもあるという。

  「ここを出ても、彼らには行くところがないんです。だから、いつでも帰ってこれる環境をつくりたい。じつは、ここから少し行ったところに土地を買ってあるんです。そこに18歳以上の子どもたちが暮らせる家をつくろうと思って。場合によっては、その新しい家から仕事に出かけたり、大学に通ったり。やっぱり、彼らは家族ですからね」

 気づけば、ずいぶん長い間、マイケルさんを独占してしまっていた。ついにしびれを切らした10歳くらいの男の子が、青々とした芝生の庭から大きな声でマイケルさんを呼んでいる。

  「ダディ(お父さん)、早くおいでよ!」


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