OTO ZONE

Yearly Archives: 2013

ピストリウス逮捕に思う

 以前にも書いたように、僕はいずれオリンピックとパラリンピックが統合され、ひとつの大会となることを願っている。 (Togetter「パラリンピックをなくしたい!」  参照)。  多くの人が「無理だ」「現実味がない」と考えるだろうが、そこに一人のアスリートが登場した。  パラリンピックのみならず、オリンピックにも出場し、さらには好成績を収めた義足のランナー、オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)の登場は、僕らに大きな衝撃を与えた。彼の出現は、ただ「障害があるのに頑張っている」という精神論に留まらない、じつに重要な議論を巻き起こした。  カーボン製の競技用義肢を使用するピストリウス選手がオリンピックに出場することに対して、「五輪という舞台に障害者が参加できることは素晴らしい」と称賛する声がある一方、「義肢を改造すれば、いずれ健常者より速く走れてしまうのではないか」と、その公平性に疑問を投げかける声も上がった。  どちらも、傾聴に値する意見だ。オリンピック・パラリンピック両大会の統合を願う僕としては、「どちらが正しい」「どちらが間違っている」ではなく、こうした議論が起こること自体が重要だと考えている。また、今回こうした形で問題提起をしてくれたピストリウス選手には、心から敬意を表したい。  そのピストリウス選手が、恋人を自宅で射殺した罪で、殺人容疑に問われている。本人は誤射だと供述しているが、検察側は計画的殺人だと主張している。さらには、自宅から筋肉増強剤と注射器が見つかった。殺人とともにドーピング疑惑も浮上。障害者界のスーパースターは、一気に窮地へと陥った。  僕は「同じ障害者だから」「彼の功績は偉大だから」という理由で、盲目的に彼を擁護するつもりはない。今後の捜査の進展を、慎重に見守っていくつもりだ。だが、たとえ彼の容疑が確定したとしても、ピストリウス選手が殺人を犯していたとしても、それは示唆に富んだ事例になるだろうと思っている。  彼らは清らかな存在で、けっして悪いことなど考えるはずがない――『五体不満足』出版以来、僕もこうしたステレオタイプな障害者観に苦しみ、窮屈な思いをしてきた。もしも、ピストリウス選手が殺人を犯し、筋肉増強剤を使用していたとなれば、そうした障害者観に大きなヒビを入れることになる。  今後、ピストリウス選手は無実が証明されるかもしれないし、獄中に入ることになるかもしれない。いずれにせよ、彼の存在、彼の言動は、これからも一面的な障害者観に一石を投じることになるだろう。そしてまた、僕自身もそうした存在でありたいと思う。いい意味で、期待を裏切っていきたいと思う。  障害者にだって、飲んべえや、エロや、ろくでなしもいる。肉体というものは、言ってみれば“容器”なのだ。その中にどんな中身が詰まっているかなんて、開けてみなければわからない。その容器だけを見て、蔑んだり、期待したり――それがいかにバカバカしいことか、僕らはそろそろ気づくべきだ。  そんなわけで、今日も僕は僕らしく、肉体にとらわれることなく、自由に生きていきます。みなさんも、肉体にかぎらず、さまざまなカテゴライズに縛られることなく、自由に生きてみてください。もしかしたら、この世界はもっと広く、その人生はもっと楽しいものかもしれませんよ。


『Nスタ』

2月8日(金)の『Nスタ』(TBS系16:53~19:00)に生出演します! 教員による体罰問題などについて、お話する予定です。 出演時間は18:15頃からの予定です。 是非、ご覧ください。 (予告なく番組の内容を変更する場合がございます)


『本格報道INsideOUT』

2月5日(火)21:00~21:54 BS11において、 『本格報道INsideOUT』に生出演します! 「乙武洋匡さんと考える”教育再生”」と題して、 教育再生の目的は何なのか、何が教育現場に必要なのか。 じっくりと語ります。是非、ご覧ください!


それ行け、だるま先生!

 無料通話・メールアプリ「LINE」のスタンプにもなっている明光義塾のキャラクター「だるま先生」がやけに僕に似ていて、とても親近感を覚える。人気子役タレント・はるかぜちゃんも「ホントだ!」と共感してくれ、以来、だるま先生を気に入ってくれた。  昨日、たまたま彼女のツイッターでLINEが話題になったことから、彼女は「乙武先生とだるま先生は似ている」とつぶやいた。これに対して、多くの方から「それは不謹慎な発言だから控えるべき」「不快な発言だ」とのリプライが殺到した。その経緯と彼女の反論については、こちらにあるのでお読みいただければ。  では、いったい彼女の発言のどこが不謹慎なのだろう。まず、「だるま先生と僕が似ている」と言いだしたのは、ほかでもない僕自身であり、さらに僕とはるかぜちゃんは年齢こそ離れているものの、たがいに信頼しあう友人である。だから、彼女が僕を揶揄しようとしての発言でないことも理解している。  そうした事情は彼女もツイッター上で懸命に説明したが、それでも「不特定多数の見ている場所で、誤解を与えるような発言をすべきではない」「この発言を読んで不快になる人もいる」と食い下がる方が多くいた。つまり、「僕以外の四肢のない人が読んだら、傷つくのではないか」という先回りした配慮である。  もし、彼女が「四肢のない人全般」を指して、「だるまみたい」と無邪気に発言したのなら、「それは気をつけたほうがいいかも……」と思わないでもない。でも、彼女は不特定多数を指したのではなく、あくまでも「“乙武先生が”だるま先生に似ている」と言ったのだ。話を、僕個人に限定しているのだ。  以前にも書いたが、「背が高いですね」というのは、一般的にはほめ言葉として捉えられる。でも、もし背が高いことを気にしている人に「背が高いですね」と言えば、その人を傷つける可能性がある。つまり、「だるま」という言葉が、「背が高い」という言葉が、それぞれ誰に向けられたものであるかを考えることが重要だと思うのだ。  今回の騒ぎは、「障害者」を「障がい者」を表記する流れと良く似ている。「害」という字は、障害者が不快に思うのではないか――障害者がすべて同じ心境であると「一括りにした」「先回りの」配慮。それは僕からすると「臭いものにはフタ」と受け取れなくもない。そうした思考自体が、誰かを不快にしていることだってある。  先回りの配慮をありがたく思う障害者もいれば、そうした配慮を不快に思う僕のような障害者もいる。少しでも相手を傷つける可能性のある言葉を見つけて、鬼の首を取ったように「不謹慎だ」と正義の味方を気取る人々の姿は、とても滑稽だ。ならば、「背が高い」という言葉だって誰かを傷つける可能性があるのだから、もう二度と使えない言葉ということになってしまう。  ずいぶん長くなったので、このへんで。最後にどうしても伝えたいのは――  「結果的に大々的な宣伝になったのだから、明光義塾は何かくれ(笑)!」  ちがった……「思考停止にもとづく安易な配慮こそが、誰かを傷つけていることもある」ということ。心の隅に留めていただければ。エロだるまより。


イスラム教は悪?

 アルジェリア人質事件。日本人7名を含む人質37名の死亡が確認されました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、まだ安否のわかっていない方々の無事を祈るばかりです。自分たちの主張を通すために無関係の人々の命を脅かし、奪うという非道な手法に、激しい憤りを覚えます。  一方で気になるのは、ただでさえ日本人にとってなじみが薄く、「なんだかよくわからない宗教」と位置づけられてしまっているイスラム教に対する偏見や嫌悪感が、今回の事件を機に、より増長されてしまうのではないかということです。それは絶対にあってはならないことだし、避けなければならない。  じつは、先週まで北アフリカにあるモロッコという国に一週間ほど滞在していました。今回の事件が起こったアルジェリアのすぐとなりにある国です。モロッコに住むほとんどの人々は、イスラム教徒。でも、彼らはやさしく、穏やかで、車いすで旅する異邦人の僕に、とても親切に接してくれました。  もともとイスラム教は戒律に対して厳格な国が多く、人々は理性を保つためにアルコールは口にせず、また盗みが大罪であるという意識が強いことから、窃盗事件も起こりにくいと聞きます。実際、モロッコでもスリなどの被害に遭う観光客は少なく、僕もその点では欧州より安心して過ごしていました。  しかし、なかにはイスラム復興主義(一般的には原理主義)という思想を信仰している人々もいます。これは、現在のイスラム世界は教典『クルアーン(コーラン)』に基づいたものではなく、原点回帰すべきだとする考え方です。そのため、近代的または西洋的な価値観とは相容れない面も大きい。  この自分たちが理想とする伝統的なイスラム社会を実現するために、暴力や破壊的活動を行う人々がいます。これが、イスラム過激派と呼ばれる人々です。つまり、今回の事件を起こしているのは、「イスラム教徒」のなかの「イスラム復興主義者」のなか「過激派」という、ごく一部の人々なのです。  こうした背景を押さえることなく、メディアが、そして僕らが「イスラム勢力によるテロ」と単純化して表現してしまうことで、あたかもイスラム教そのものが危険な思想であるかのような誤解を与えてしまうとともに、イスラム教を信仰する人々への差別や偏見を生みだしてしまいかねません。  それは、サッカーの試合会場で暴力的行為を行うフーリガンを指して、「サッカーファンは低俗だ」「サッカーとは野蛮なスポーツだ」と論じてしまうことの無意味さ、滑稽さと通じるところがあります。一部の人々の思想や行為を、全体がそうであるかのように錯覚してしまう危険性がここにあります。  このことは、『五体不満足』を出版し、多くのメディアで発言する僕を見て、つまり、「障害者の一部に過ぎない」僕を見て、「障害者は誰しも前向きに生きられるはず」と、ほかの障害者にまで明るく振る舞うこと、努力することを求める人が多くいたこととも似ているかもしれません。  テロリストたちの卑劣な行為に対しては、絶対に許すことができません。どんな思想、どんな信条であれ、暴力によって他者の命を奪うことなど、あってはならないことです。ですが、今回の事件によってイスラム教やそれを信仰する人々への偏見が生まれないことを切に願っています。了


『ホリエモンの満漢全席』

1月16日(水)23:00~24:00 ニコニコ生放送にて、 『ホリエモンの満漢全席』に出演いたします! 昨年の暮れに刑務所まで面会に行ってきた様子をお伝えします。 MCは脳科学者の茂木健一郎さんです。 ぜひ、ご覧ください。


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