OTO ZONE

愛情のパイプ、詰まっていませんか?

2012年10月9日

 新刊『ありがとう3組』を書いた理由として、前作には盛り込めなかった「発達障害」と「親子の関係」という2つの事柄について伝えたかったことは昨日触れた。発達障害についてはすでに「ストライクゾーンという幻想」にまとめたので、今日は「親子の関係」について。

 小学校教員を3年間経験して、皮肉にも感じたのは「やっぱり家庭が大事」ということ。学校での言動に顕著な変化のあった子に話を聞いてみると、家庭で何らかの環境の変化があったケースがほとんど。大人から見ればささいに思えるようなことでも、子どもたちは大きく精神的なバランスを崩していた。

 愛情に包まれ、安定した家庭のなかで育つ子もいれば、親自身が自分のことで精いっぱいで、子どもに愛情が向けられていない家庭もあった。そうした機能不全とも言える家庭のなかで育つ子どもは、どこか不安定だったり、自分に自信が持てなかったり。スタートラインでの不平等さを痛感させられた。

 だが、それ以上にもどかしく感じたのは、「親の愛情がうまく伝わっていない」ことだった。そして、このケースがいちばん多いのも事実だった。「ねえ、好きって言ってよ」「バカ、言わなくてもわかるだろ」――こうした「言わなくてもわかる」という文化は、恋愛にかぎらず、親子間にも存在する。

 教師という立場で、家庭が抱える問題を解決することは難しい。だが、親子の間をつなぐ“愛情”というパイプの詰まりを掃除し、流れをよくすることならできる。子どもを愛していないなら仕方ないが、そこに愛があるのに伝わっていないのはもどかしい。僕は、あらゆる手立てでパイプ掃除役に徹した。

 『ありがとう3組』でも、主人公・赤尾はねじれた親子関係を目の当たりにして苦悩する。そうした親子の問題に直面するうち、赤尾は自分自身の親とも向き合うこととなる。それは、赤尾の物語であり、僕の物語でもあった。最終章は、小説ではなく、ノンフィクションを書いている感覚に近かった。

 子育て中のみなさん、「言わなくてもわかる」と、愛を伝えることをサボっていませんか? 「私は愛されてこなかった」と感じているみなさん、それはうまく伝わっていなかっただけではないですか? 照れや、意地や、思い込み――そんなつまらないものが愛情のパイプを詰まらせてはないでしょうか。

 「親子」という関係を経験せずにきた人など、だれもいない。きっと、『ありがとう3組』のなかで赤尾とともに「親子問題」の解決に奔走していくことで、おのずと自分自身の親子関係を見つめ直すことになる。書いている僕自身が、そうだったように。それが、今回のタイトルにもつながってくる。

 前作『だいじょうぶ3組』では、学校における問題を描くだけで手いっぱいだった。でも、子どもの育ちを語る上で、家庭を、親子の関係を無視するわけにはいかない。だから、今作ではどうしてもそのことを軸に据えたかった。この物語を通じて、いま一度、みなさんにもご自身の親子関係を振り返っていただければ。


『スタジオパークからこんにちは』 『バリバラ』
『スタジオパークからこんにちは』
『バリバラ』
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